注目している賞、「アラブ・アメリカン・ブック・アワード」の2024年受賞作が決定した。
この賞は、アラブ・アメリカンについて書かれた優れた本に対して毎年贈られる賞。アメリカに住むアラブ系の作家が、独自の視点でアメリカ社会やマイノリティの境遇を書いている作品が多い。カテゴリーも、フィクション、ノンフィクション、詩、児童文学、YA文学と、結構幅広い。
詩や児童文学、YAについては私は疎いので、フィクションとノンフィクションを簡単にここで紹介したい。
どれも(たぶん)未邦訳。
フィクション部門
ディーナ・モハメド『あなたの願いが私の命令(Shubeik Lubeik)』
エジプトのカイロを舞台としたグラフィック・ノベル。願い事が売られている世界を生き抜く3人の物語。夫を亡くしたアジザは願いをかなえる権利を得るために官僚主義と不平等と闘う。恵まれた大学生のヌールはうつ病を治すために願いをかなえるかどうか悩んでいる。ショクリーは願い事に頼りたくない友人を助けるため、自らの宗教的信念と格闘する。空想的な世界を描きながら、自分の深い欲望をかなえようとする人間のもつ現実的な課題を取り上げる。
エジプト人の作者はデザイナーやイラストレーターとしても活躍しているそう。本作はアラビア語で最初に出版され、2017年のカイロ・コミック・フェスティバルで最優秀グラフィック・ノベル賞、グランプリを受賞。
Warwick Prize for Women in Translation受賞、Eisner Awardノミネート、Hugo Awardノミネート、ウォール・ストリート・ジャーナルやワシントンポストのベストブックオブザイヤーにも選出と、多方面で注目されているよう。これは気になる!『銭天堂』に似ているかも。
ノンフィクション部門
ロダ・カナーネ『正しい苦しみ ジェンダー、セクシュアリティ、アメリカで亡命を望むアラブ人(The Right Kind of Suffering: Gender, Sexuality, and Arab Asylum Seekers in America)』
アラブ人の亡命希望者のボランティア通訳を経験した著者が、4人の亡命希望者がアメリカの亡命制度の要件を満たすためにどのように物語を作り上げることを学んでいくか、その過程を記す。サウドは、スーダンで割礼と警察からの嫌がらせを受け、その記憶に番号や順序をつけることを学ぶ。ファティマは、夫からの虐待によって生じた精神疾患を過度に強調しなかった。ファディは、ヨルダンで同性愛嫌悪から逮捕と拷問を受けたが、関連する階級や人種差別の問題には触れなかった。マルワは、レバノンのシーア派の家庭で育ち、レズビアンとしての苦難を暴露するが、環境保護活動については控えめに語った。アラブ人の亡命希望者のサクセスストーリーと、制度によって見放される人々との対比を描く。
ジェンダー、セクシュアリティ、人種、法制度などインターセクショナリティの実態を亡命という視座から斬る感じだろうか。興味深い!
アンナ・レカス・ミラー『国境を越える愛 分断された世界でのパスポート、書類、恋愛(Love Across Borders: Passports, Papers, and Romance in a Divided World)』
イスタンブールでシリア戦争を取材していたときにシリア人と出会い恋に落ちるという著者自身のストーリーが語られる。トルコが難民の取り締まりを厳格化し、シリア人の恋人セイラムはトルコに滞在できなくなるが、シリアにも安全に戻ることはできない。セイラムの亡命申請やアメリカのムスリムに対する入国禁止措置などに直面しながら、国籍の違う人同士の、複雑な状況下での恋愛や家族関係への理解を深めていく。トルコ、イラク、シリア、ギリシャ、メキシコ、アメリカと、紛争の多い国境を読者とともに横断し、パスポートの歴史や植民地主義の遺産、差別的な法制度について考察する。
こちらも亡命つながり。特殊な状況での国際恋愛から、植民地主義や法制度といった広いテーマに結び付けているのがおもしろそう!戦争ジャーナリストなのに(だからこそ?)恋愛というかなり人間的なテーマを扱っているのも意外性がある。
ということで、今年もどれも面白そうなものばかり。さっそく取り寄せてみる。よさそうだったら、企画書にして売り込んでみよう。
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